無題
空気のよどんだラボで、宝条はこめかみに手をあてる。
徹夜が続いていた。
身体が重く、頭などはいっそう重い。自分の首で支えることすら
困難なように感じるほどだ。
「宝条、ちゃんと寝たらどうなんだ」
その声に振り向かず、宝条は眉を寄せた。
「寝ているだろう」
「そんなところでか?」
「デスクだろうと、寝ることに変わりはない」
「そうして、いつも身体を壊すんだろう」
「君に迷惑はかけないだろう」
「嘘をつけ。どれだけこちらは被害を被っていることか」
口うるさい男だと思いながら、宝条は目を薄く開く。
「大体、今は寝られる状態じゃ・・・」
不満をぶつけるように、彼は勢いよく振り向いた。
そこは、誰もいない、自分ひとりだけのラボ。
椅子を回転させたままの姿勢で、宝条は動きを止めた。
ゆっくりと口唇を閉じて、彼はひとつ、笑う。
「・・・きみは、眠ってまで、私に口出しをするのか」
私のことなど構うな。
・・・私の心に、棲むな。
どうせまた、会える日がくるのだから。
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ヴィンセントがいなくなった直後とかの博士。
なんかこう、彼の幻聴とか聴いているといいな、と思って書き始めたのですが、
どうしてこれだけの短さなのに、遅くなったのか…。
2005.05.17
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