B C Party

 



Binary Star




 宝条は感情の起伏が激しい。
 それを理解していることと、それに付き合えることは全くの別物だ。ヴィンセントとルクレツィアは、 それを知っていた。
 機嫌がいいかと思えば、じきに不機嫌になる。
 優しいかと思えば残酷で、愛を語るかと思えば、憎む。
 矛盾だらけの、幼稚な男。
「彼はノヴァ(新星)よ」
 そう言ったルクレツィアの顔を見ずに、ヴィンセントは左右に首を振った。暗い星が突然明るくなる? そんな生易しいものではない。
「あいつは・・・変光星さ」
「変光星?」
「そう。明るさが不規則に変わる、変光星」
「あなたがそんなこと知っているなんて、知らなかったわ」
 ルクレツィアは微笑んだ。
「じゃあ、あなたたち2人の場合、なんだと思う?」
「・・・私たちか?」
 ヴィンセントは首を傾げしばらく考えたが、それと思える星は思いつかない。彼女は組んでいた脚を ほどき、身を乗り出す。
「連星、よ」
「・・・連星・・・」
 聞いたことのない言葉だった。
「肉眼ではひとつにしか見えないけれど、実際は2つの星、というのが連星よ。意味が、 わかる?」
「解らない。なぜ私たちが連星なのだ」
 不満そうにヴィンセントは言う。
「明るいほうを主星、暗いほうを伴星というの。万有引力によって、2つで公転運動しているのよ。 ・・・それを望んでいないとしても」
 ヴィンセントは何も言わない。
 彼は自分が伴星なのだろうと考えていた。
「2星は分離できないのよ。不思議なことにね、今までの研究だとかなりの星が連星をなすと言われてい るの。おもしろいと思わない?」
「・・・なぜ?」
「自分の意思とは関係なく、陰陽のように引き合わされる相手が決まるのよ。相手を どんなに憎んでも、離れることは許されなくて」
 だから、あなたたちは連星のようだな、と思ったの。
 彼女はそう言い、再び脚を組んだ。
 残酷な運命は、星どころか人々までを引き合わせるというのか。
 ヴィンセントは窓の外に視線を移す。現れかけた夕闇の星たちが、妙に眩しい。こうして 見ているひとつひとつの星には、自分たちからは解らないが多くの「相方」が存在 しているのだということが、不思議だった。
「・・・だが、私たちは誰から見ても1つには見えない」
 ルクレツィアは笑った。
「そうね。でも、陰陽だとは思っているかもしれないわよ?」
 なら、結局1つなのか。
 逆らえない傷を背負わなければいけないのか。
 相方の星が受けた傷まで身体に受けて。
「・・・ルクレツィア、君は宇宙開発部門に行けるな」
「生憎、宇宙にも星にもロマンを感じないの」
 だって、星って人のようじゃない?
 そう言った彼女の言葉に、ヴィンセントは深く納得する。
「君の連星は?」
「さあ?相方がいない星だって、たくさんあるわ」
「・・・やっぱり、星にはロマンを感じられないな」
「そうでしょう?」
 2人は笑い、もう1度窓の外を眺めた。
 先刻よりも暗い空に、数多の星が煌いていた。




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 星も人も、運命を背負っていると思います。
 ロマンチックな星は、ロマンも感じるけれど、同時に儚いほどの運命と残酷さも感じて しまって、やっぱり人のようだと思うのでした。


2004.09.19







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