B C Party

 



純白の死神




 言い訳などする気はない。

 それは、任務に失敗したヴィンセントの最後の言葉。


「最後の言葉だなんて、死んだみたいに言わないで」
「しかし、あれから昏睡状態だ」
「昨晩意識が戻ったわ。会ってないの?」
「こっちが忙しくてね」
「幻覚症状が出てるわ。弾丸、見たでしょ?」
「研究済みさ」
 よく解らない銃の山を研究室に持ち込んでいる宝条を見て、ルクレツィアは大きく 溜息をついた。
「で、何をするつもり?」
「何って、ヴィンセントの仇をうつのさ」
 宝条が突拍子もないことを始めるのには、もう慣れていた。だが、今回は特別呆れてしまった。 呆れを通り越して、怒りがルクレツィアの胸を焼く。
「・・・あなた、本当にバカね!?」
「なぜ君にそんなことを言われなくちゃならないんだ」
 愛に溢れていると言ってくれないか、なんて言いながら、宝条は銃をあれこれと手にとっている。
「ヴィンセントが負けたのよ!銃と銃の戦いで!それを、あなたが勝てるわけじゃない。 銃なんか、ほとんど撃ったこともないくせに!」
「ちょっと静かにしてくれないか。これだから女は嫌だ・・・。根拠もないことに 左右されて、ピーチクパーチクと・・・」
 根拠がないのは、あんたのほうよ。
 そう言いたいのを堪える。
「さて、使う銃は決めた。これからが本番だ」
「え?」
 宝条は、薬莢と火薬をルクレツィアに見せ、笑った。


「あ・・・あいつらが・・・!」
「ヴィンセント、しっかりして!」
 ルクレツィアはヴィンセントの肩を叩く。
 薄く目を開けたヴィンセントの顔色は、蒼白だった。
「ああ・・・ルクレツィア・・・虫が、そこに・・・」
 ヴィンセントの指差した天井は白く、染みひとつない。
「ヴィンセント、何もいないわ。安心して眠って」
 幻覚症状だった。
 相手がヴィンセントに撃ちこんだ弾丸には、幻覚を見せる毒が塗られていた。それが、 ヴィンセントを3日間苦しめている。
 ルクレツィアは、ヴィンセントの手を取る。
「安心して。宝条博士が相手を倒しに行ったから・・・」
「あ、いつじゃ、無理だ・・・!」
「大丈夫。あの人は殺しても死なないわ」
 その言葉に、ヴィンセントは微笑む。
 そうかもしれない。
 あの、白衣の悪魔なら。


「いい夜だ・・・」
 先日、ヴィンセントと敵が対峙した廃墟ビルの中で、宝条は相手の男を待っていた。
 持ってきたショットガンに、弾丸を詰める。
 最後のひとつを詰め終わったとき。
「先客か」
 男・・・、ダラスが現れる。
 中肉中背で、歳はヴィンセントと然程変わらないように見える。茶色い髪の毛は、 短く切りそろえられていた。
「ここは俺の寝場所なんだ。出て行ってくれないかな、学者さん」
「生憎、ここにある血痕が好きでね」
 宝条は男に見向きもせず、壁に飛んだ血に触れる。
 それは3日前、ヴィンセントが流した苦痛の血。
「ぞくぞく、しないか・・・?」
「あんた、ちと頭がおかしいようだな」
「これから、君も同じようにしてやろう」
「ハハッ。なんのことだか解らんな」
 目の前にいる白衣の男に、ダラスは油断をしていた。
 白衣の裾からショットガンが出るのと、ダラスが慌ててホルスターから銃を抜くのは同時だった。
 そして、同時に撃ちこまれる弾丸。
 だが、宝条は倒れなかった。
「そんなに慌てて撃っちゃ、当たるものも当たらないよ」
「こ、こんな傷・・・」
 命中率の格段に高いショットガンは、宝条の腕でもダラスに致命傷を負わせていた。
「おとなしくしているといい・・・」


 じきに、楽しい夢を見られるから。


 男は、仰向けに倒れ、息を乱す。
 宝条は男の横に座った。
 拳銃を奪い、ガラスの入っていない窓から投げ捨てる。
「・・・頭がおかしくなるのは、怖くはないよ」
「なに、を・・・、撃った・・・」
「毒と、幻覚剤さ」
 ダラスが血を吐く。
「君が、3日前タークスの男に撃ち込んだ弾に塗られていたものより、 もっといい薬だ」
 宝条の指が、ダラスの茶色い髪の毛を梳く。
 月が、2人を照らした。
「あんたは・・・復讐をしにきたのか・・・」
「・・・君のせいで、ストレスが溜まっていてね」
 3日もセックスしないと、君だってイライラするだろ?
「・・・俺はもう、1ヶ月も、ヤッてない・・・」
「大丈夫。その薬が、気持ち良くさせてくれる」
 宝条は、ダラスのフープピアスに触れる。
「ああ、そうだ。君は耳の形が彼に似てる・・・」
 その言葉は、ダラスには届いていなかった。
 死を待つだけの虚ろな眼が、月を映している。
「いい顔だ。何を見ている?教えてくれないか・・・」
 宝条は身体を屈め、ピアスを舐めた。
 次に、ダラスの口唇から滴る血を。
「あんたは・・・白くて・・・」
 男が、息だけになった声で、呟く。
「ふくも、かおも・・・しろくて・・・」
 おれは、てんしかと、おもったんだ。
 ゆだん、したよ。
 くろいふくだったら、そんなこと、なかったのに。
「・・・あいにく、脱がない主義でね」
「でも」
 でも、よかった。
 しろいひとがみせてくれるゆめは、きれいだ。




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 復讐をする博士の話。
 純白の服を纏う死神、鬼畜な天使。
 博士は、そんな人だと思う。
 後半がメインです。


2004.09.01







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