colors

















 彼の傷を始めた見たときのことを、ヴィンセントは今でも覚えている。
 紙の端で指を切ったときだったろうか。 顔をしかめて絆創膏を探している宝条の指に、ヴィンセントの視線は釘付けになる。
 その時、こう思ったのだ。
 こいつの血は赤だったのか、と。
 別に、青や、緑や、紫だろうと思っていたわけではない。
 要するに、「こいつも人間だったのだな」と確認させられたのである。
 全く、変なところで神は平等すぎる。
 どんなに頭がイカれていても、流れる血の色は皆同じだ。
 そんなことを考えるヴィンセントに、宝条は絆創膏を差し出す。
「貼ってくれないか」
「・・・そのぐらい、自分で貼れるだろう」
「やりにくい」
 仕方ないと言うように、ヴィンセントは椅子を回して向き直る。
 宝条の白い手首には、青い血管が見えている。
 そして、自分の手首にも。
 宝条が、今まで幾度も幾度も口付けてきた、その手首。
 ヴィンセントは目を伏せた。
「・・・お前の血が赤くなければ、・・・」
 言いかけて、言葉が淀む。
 赤くなければ?
 一体、なんだというのか。
 手を止めたまま何も言わないヴィンセントに、宝条は小さく笑う。
 答えなど欲していない、というように。
「残念だが、私の血が何色であっても、何も変わらない」
 たとえば。
「私の生活も、行動も、思考も」
 それから。
「君の心も」





 絆創膏を貼られた指が、再びパソコンのキーを叩き始める。
 ヴィンセントはぼんやりと、手の中にある絆創膏の紙を見つめた。
 全てを見透かしていた答え。
 それは正しく、しかし哀しく、反論などひとつもできない。
 だが、それでも「もしかしたら」と思ってしまうのだ。
 彼の血が赤くなければ、もしかしたら。
 自分はこんな男を愛することはなかったのかもしれない、と。





 しかし、ヴィンセントは知っている。
 明日、宝条の血が青くなっても、自分は彼を愛するだろうことを。
 そして、それに抗えやしないことを。















 2006.01.31




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