その棘は、苛々するほど、小さく、彼を苦しめる。
 いや、苦しめているわけではないかもしれない。
 ただ、小さなそれから与えられるストレスは計り知れず、男は机でそれが刺さった指を見つめたまま 眉を顰めていた。





「どうしたんだ」
「・・・なにが」
 ルードの問いに、レノは顔を上げもしない。
 問いかけた男は嫌そうな顔もせずに、再び問う。
「・・・いらついてる」
「あんただって、棘が刺さったら苛々するだろ」
「・・・・・・棘がなくても、おまえは苛々しているだろう」
 棘があるから、さらにそうなっているだけで。
 ルードの言葉に、やっとレノは顔を上げる。
「ピンセット、よこせよ、と」
「・・・・・・言い訳をしないのか」
「なにが」
 救急箱から取り出したピンセットを渡し、ルードはレノの隣に立つ。
 受け取った男は、それで棘を抜きにかかった。
「言い訳って?」
「・・・苛々しているのは、」
 棘のせいだ。
 そういう言い訳。
「なぁ」
 鋭い眼が上げられる。
 ピンセットと、それに抓まれたままの棘が、床に投げ捨てられた。
 レノは棘が刺さっていた人差し指に口唇をあて、立ち上がる。
「俺が苛々してる理由が、他にあるっていいたいのかな、と」
「・・・・・・」
 挑発的な言葉に、ルードは決して返事をしない。
 絶対的な事実は、あえて口にするべきではないということを、利口な彼は知っている。そして、ルードの その性格も、自分の性格も、レノは理解していた。
 ルードを睨みあげたまま、レノは笑う。
「・・・明日には、終わるさ」
 この、むかつきも。
「そうだと、いいんだが」
「終わるって、あんたも知ってるだろ」
 息だけで笑い、レノは再び椅子に座る。
「・・・あいつが出張に出てから、ずっと刺さってた」
「・・・・・・棘が?」
「俺があいつを忘れないように」
 その戒めかもしれないぞ、と。





 別に生活に支障はきたさない程の、ストレス。





 それが蓄積されたとき、その存在に、初めて人は気付く。





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 意味が解らない話かもしれません。
 解ってくれる人はいるだろうか。



2005.02.25





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