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ウニオ・ミスチカ






 行動に捕われては、なにも見えないから。





 2週間の遠征。それは仕事にしてみたら大した長さではないかもしれない。だが、恋人たちの 時間としては長い。ましてそれが、冬の近づいた季節だとしたら。
 車に乗り込んだイリーナは、ふとバックミラーを自分に向けた。化粧は先刻、全直ししたばかりだ。 ハンドバッグからピルケースを出して、ピアスを選ぶ。久しぶりの再会だ。薄桃色のピンクダイヤ ならあまり目立たないだろう。前髪を手櫛で直し、小指で口唇のルージュを直す。あまり濃いと、 レノが嫌がることを知っていた。
 それは、キスの時に。
「・・・いいかな、これで」
 ハンドバッグを閉じて後部座席に放ると、シートベルトに手を伸ばした。
 ハイウェイまで、車で30分。今の時間なら帰宅ラッシュも終わっている。飛ばせば20分で 着くかもしれない。
 早く、早く、早く。
 再会を望む自分を、今日は否定しないでおこうと、思った。



『ルード、21時にレノを迎えに行ってくれないか』
 車のキーを投げられたルードは、それを見てから、ツォンを見た。
『送ってくる人間が、いたはずでは・・・』
『ジュノンにまだ何人か残っていてな。送るほどの人手も時間もないらしい。 6番ICで降ろしてゆくから、迎えに来いということだ』
 そんな中途半端な場所でな、とツォンが不平を漏らす。
『6Iですか・・・』
『頼んだぞ。私はこの後、別の仕事がある』
 そう言って腕時計を見たツォンは、何かを書類を抱えて部屋から出て行った。残された ルードが、ちらりとイリーナを見る。
 目があった彼女は、慌てて逸らす。
 イリーナの机の上に、コトリと鍵が置かれた。
『車は、明日の朝までに返せばいい』
 ルードの言葉はそれだけだった。
 そこに含まれる幾つもの意味を、イリーナは瞬時に悟っていた。
 そして彼女は、無意識に、鍵を掴んだ。



 ICに入ると、すぐにレノは見つかった。
 コートも着ずに、マフラーも巻かずに、植え込みに座って煙草を吸っている。 寒そうに肩を竦めていた。
 彼の前に車をつけて、イリーナは窓を開けた。
「レノ先輩!」
 ほんの僅か、レノが口元を緩めた。
「さっむいぞ、と」
 そう言って車に乗ったレノは、温風の吹き出し口に手を当てる。靴を脱いで、助手席の 上で膝を抱えている、その姿が懐かしかった。
「お疲れ様でした。大変ですね、こんな所で降ろされて」
「人手不足ってあっちは言うけど、タークスだって暇じゃねぇぞ、と」
「私は暇でしたけどね」
 そんなことを言っていたが、本当は持ち帰りのデータ処理があった。そんなことは、 レノには言わなかったが。
「でかい車借りられたんだな、と」
「あ、はい。私もびっくりしてるんですよ」
「罪滅ぼしだろ。俺への」
「え?」
「面倒な仕事押し付けて、すまなかったな、みたいな」
「・・・そうなんですか」
「車のでかさなんか、関係ねぇけどな、と」



 黒塗りの車はICから出てしばらく走ると、すぐに高速から降りた。ミッドガルの 街並みに目を細めて、レノは笑う。イリーナはレノの家への近道を選び、 大通りではなく郊外に向かった。
「・・・ふーん、こういう道選ぶのかな、と」
「えっ?」
「ひとつ、人がいない。ひとつ、街灯も少ない。ひとつ、何か下心でも?」
「なっ・・・!下心があるのは先輩のほうじゃないんですか?」
「わかってんじゃん」
 イリーナは道路を見つめたまま、ぐっと言葉を詰まらせる。
「こういうVIP車がなんで広いかなんて、簡単な理由だぞ、と」
 イリーナの耳に、レノの口唇が寄せられた。
「色々できるように、わざとだぞ、・・・と」
 ハンドルを握る手が、震えた。
 耳にかかる息と、首筋に触れられた指。それらを、いつもよりも 敏感に感じていた。
 レノの右足が伸びて、ブレーキを踏む。
 突然のブレーキに、イリーナは慌てて車を道の端に寄せた。
 息をついて抗議する暇もなく与えられる口付け。深呼吸すらくれない、 優しさの欠片もないような、獣のようなキスに、イリーナは身体の自由を奪われた。 この人に口付けられるその瞬間、言葉にできない快感と恐怖が身体を支配する。 獣のような相手に怯んでいた。
 だがそれすら、流されてしまえば媚薬。
「・・・制服じゃ色気ねぇぞ、と」
「着替えなんて持ってませんでしたから」
「冗談に決まってんだろ」
 突然、助手席に引き寄せられる。半ば持ち上げられていた。
「ハンドルが邪魔」
「ちょっ・・・、先輩、もしかして」
「お前、別に上でもいいだろ」
 彼女が気付かないうちに、上着が脱がされている。それは運転席に 放り投げられていた。皺になるのが嫌だったが、そんな抗議など無意味だ。
 皺になる前に、終わらせればいいだけだから。
 ウエストインしていたシャツの裾から、レノの手が入ってくる。僅かに冷たいその 手のひらが、直接乳房に触れた。イリーナは身を捩る。
「相変わらず胸ねぇぞ、と」
「2週間で大きくなるほうが不気味です」
「そうか?」
「それより先輩、手、冷たいです」
「あっためればいいだろ」
「・・・私でですか?」
「嫌?」
 返事の代わりに、イリーナもまたレノの胸に触れた。
 こんな時に、はだけたシャツは便利だと思う。
 たったそれだけで、自分の身体が熱を持ったのを、イリーナは感じていた。急かされる、 その感覚。まどろっこしいことなど抜きにして、ただ、無心に。
「・・・待ってたんだろ」
「先輩こそ」
「言えよ」
「・・・先輩が言ったら言います」
 レノは笑う。イリーナも解っていた。彼はそんなこと言わない。
 お前に会いたかった。
 お前が欲しかった。
 そんなこと、言わない。
 だが、わかる。
「お前も俺も、同じだな」
「・・・そうですね」
 暗闇の中で、レノが笑っていた。
 そんな彼の膝の上で、イリーナもまた笑う。
 行動の意味など、そこには皆無だった。



 自分たちがやっていることの意味など、2人は考えていなかった。
 うまくやろうなどとも、思っていない。
 満たそうとも、満たしてやろうとも、考えず。
 ただ、無心に。
 神秘的合一。



 淫らだと笑うなら笑えばいい。
 自分たちは、そんなに精神的にやってるわけじゃないんだ。




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 武者修行リクエストをくださった、オセロさまへ。

 ウニオ・ミスチカ 【 神秘的合一 】

 エロとしても、裏にならない程度にしました。
 前置き長くてすいません。でもエロ。の、つもり。
 何が書きたかったのかなぁと思うと、やってる時には精神論なんて全く無意味な2人の話。 それが天下のイリーナちゃんでも、没頭。そんなところでしょうか。
 迎えに行くときから、その気満々だった彼女も書きたかった。

 オセロさま、こ、こんなもんです、が・・・!



2004.12.16





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