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ささくれ






 爪を伸ばして綺麗なネイルを塗れたらいいのに。
 そんな、ささやかな願望を、私はタークスに入ってから持つようになっていた。仕事柄、 爪を伸ばしているのは任務に支障をきたす。ネイルだって、 どうせすぐに剥げてしまうのがオチだ。
(手も荒れたなあ・・・)
 引き出しからハンドクリームを出して、カサカサになっている手の甲に 伸ばす。だが、こんなことをしても気休めにしかならない。
「あ、ささくれだぞ、と」
 突然、背後からレノ先輩が私の手を覗いた。
 見ると、左手の中指・・・、爪の生え際にある 皮が浮いていた。少し引っ張れば切れそうになっている。
 私はその手を引っ込めた。
「・・・仕方ないじゃないですか」
「なにが」
「手のお手入れしても、すぐに荒れるんですから」
「別に俺は何も言ってねぇぞ、と」
 私はハンドクリームの蓋を閉める。
 恥ずかしかった。荒れた指先を見られることや、 短く切られて磨かれてもいない爪を見られることは、とても。
 周囲の女性社員たちの、綺麗な手が羨ましかった。
「ささくれが気になってんのかな、と」
「・・・勿論、気になりますよ」
 私がそう言うと、レノ先輩は机の上で握られた私の左手を手に取る。
「あ」
 そう言ったときには、私の中指に先輩の口唇が押し当てられていた。指に 触れた口唇の温度と、歯の感触に、私は戸惑った。
 ささくれが、噛み切られる。
 先輩は口唇と手を離し、私を覗き込む。
「ささくれが出来たら、言えばいつでも切ってやるぞ、と」
「なっ・・・」
 耳まで赤くなるのが、自分でも解る。
「そ、そんなこと頼みません!」
 オフィスでこんな不意打ち、ずるい。
 ずるいと解っていても、嫌になるぐらい心臓はうるさい。
 私は机の上に、両手を広げてみた。
 ささくれは綺麗に姿を消している。


 あの人は、私の手が荒れていようと、そんなこと気にしてはいない。
 そう思うと、少しだけ気が楽になった。



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 自分がレノさんに同じことをされたら、と想像してみてください。
 けっこう萌えます(笑)



2004.10.21





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