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SAMURAI





























「銃は使えるか?」
「は、はい、基礎は一通り・・・!」
「じゃあ援護しろ」
 ルードはイリーナにハンドガンを投げた。それを受け取った彼女は、次のルードの 行動に驚く。
 スラム街の狭い路地に20人前後の男たちがひしめいている。彼は 拳どころか弾丸まで飛んでくるその中に駆け出した。
「せ、先輩!」
 叫んだが、声は届かない。
 イリーナは慌てて近くにあったドラム缶に飛び乗ると、民家の屋根まで上った。援護ならば、 上から下を見て銃を使う相手を仕留めなければならない。それは基本中の基本だ。
 トリガーを引き、薄暗い街頭の光だけを頼りに敵をさぐる。
(あそこだ)
 彼女は撃鉄を下ろし、トリガーを引く。
 狙いは正確。
 ルードは身体の割には素早く、次々と敵をなぎ倒してゆく。
 長い脚が、1人の男の側頭部を蹴る。
(綺麗に入った)
 自分の身長では、あれほど綺麗に入らないかもしれない、とイリーナは考えていた。そして、 一撃で相手を沈める力も持っていない。
 本当ならば、援護ではなく下でルードと戦いたかった。
 だが、今はそうは思えない。
 自分はまだまだ、未熟だと痛感せざるを得ないから。
 彼女は再び、静かな心でトリガーを引いた。





「先輩、怪我はないですか?」
 地面に降りると、イリーナは彼に駆け寄る。
 息ひとつ乱さず、彼はネクタイを直していた。
「・・・なかなかいい腕だな」
「そ、そうですか?」
「それなら、近距離戦でも冷静に相手の急所を狙うことができるだろうな・・・」
 イリーナは大きく左右に首を振る。
「そんなことないんです。やっぱり、自分の思うように急所を狙えることって 少なくて・・・」
 ルードは、じっと彼女を見下ろす。
「先輩を見てると、才能ないのかなって思っちゃいます」
 乾いた声で笑い、イリーナは銃を渡す。
 それを受け取ったルードは無言だった。
 俯いたイリーナが何かを言おうと再びを顔を上げたとき。
「先輩!」
 ルードが振り向くのと、イリーナが駆け出すのはほぼ同時。
 次の瞬間、ルードに背後から切りかろうとしていた男は、側頭部に完璧とも 言える蹴打を食らっていた。
 咄嗟に助走をつけて飛んだイリーナの蹴りは、身長差を越えて見事に 相手にヒットをしていた。
 男が倒れたのとイリーナが地面に足をつけたのは、ほぼ同時。
 イリーナは男を見下ろしたまま、止めていた息をゆっくり吐き出す。そして、振り向いた。
「私って諦めが悪いから、たまにこんな自分を見つけると・・・、自分も捨てたもんじゃ ないかなって思っちゃうんです」
 困ったように笑う彼女は、それでも嬉しそうだった。
 ルードは真っ直ぐに立ったまま彼女を見つめる。
「・・・わかる」
「先輩にも・・・そんな時期が?」
 ルードの横顔を見つめるイリーナは、そこに 穏やかな瞳が存在することを見止めた。
「最初は誰でも、そんなものだろう」
「・・・私も、先輩みたいに強くなれるでしょうか?」
 返事の代わりに、ルードの長い腕がイリーナの胸元に伸びる。
 彼は彼女の曲がったネクタイを、静かに直した。
 それが、寡黙な男の、後輩への返事。








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 レノさんとツォンさんのお話とセットになっている、 ルードとイリーナのお話です。
 二手に分かれてする任務とか、そんな感じで。
 この2人の組み合わせって好きです。和む。



2004.10.09





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