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KAMIKAZE





























 お前は神風だ。
 そう言われたレノは首を傾げる。
 トントンとロッドを肩にあてて道に倒れている男を脚で小突くと、 呻き声が漏れた。
 周囲に転がっている黒づくめの男たちは、ピクピクと動きながらも立ち上がる気配がない。
 その中に座り込んでいるツォンを見下ろし、レノは言う。
「カミカゼってなんスか、と」
 ツォンは左肩を押さえて地面から立ち上がる。
 眉間の皺は、普段の3倍ぐらいだろうか、とレノは思った。
「向こう見ずで、命知らず、ということだ」
「そうですかね、と」
 20人ぐらいの相手、簡単ですよ、と。
 そう続け、彼は腰のベルトにロッドを挿した。
「それよりツォンさん、傷平気ですか、と」
「大したことはない」
「・・・にしても、弾丸を入れ忘れるなんてミス・・・ツォンさんにもあるんですね。 びっくりですよ、と」
「うるさい」
 言われたレノは大袈裟に肩をすくめ、路地を歩き出す。
 朝日が昇り始めていた。





 レノの背後につきながら、ツォンは先刻の戦いを思い出す。それは、時間にしてみれば3分、いや、 2分にも満たないほどの瞬きだった。


 ツォンは銃を構え、トリガーを引く。
 そして叫んだ。
「弾を入れ忘れた!」
 なんと間抜けな台詞だっただろうか。男数人を相手しながら振り向いたレノは、苦笑して言った。
「じゃあ、俺1人でなんとかするってことですか、と」
 楽しそうな声だった。
 1人の男が、ツォンに斬りかかる。狼狽していた彼は、不意のことで肩を突かれた。鋭い 痛みに、眉を寄せる。
 レノは戦いながらツォンに近づく。
「大丈夫ですか、と」
「そ、それより前!」
「平気ですよ、と」
 ロッドは、振り回せばいいものではない。体術を交えながらでなければ、相手に 電撃の致命傷を食らわせることもできないものだ。レノは、それを会得している。
 普段は滅多に見せないが、彼は身軽で動体視力もある。体術だけならば、ツォンにも 勝るかもしれない。
 レノは舞うように、1人、2人と敵を地面に沈めてゆく。
 素早い。
 左からくるナイフを蹴り落とし、油断した相手に電撃を与える。そうする間にも、 彼の脚は正面にいる男の鳩尾に入っている。そしてロッドが空いたかと思えば、身体ごと回転して背後にいる 男の鼻を潰す。
 ツォンは見入った。




(神風だ)




 神が吹かせる風のように、鋭く、速く、美しい。




 結果的に、レノはツォンを守ることになった。
 今はそれだけが事実として残っている。
「ツォンさん、朝飯食ってから出社しませんか、と」
「・・・そうだな」
「経費から落とせますかね、と」
 レノは振り向きながら、歯を見せて笑う。 なんでも経費から落としたがる、だらしなくて、どうしようもない部下だ。
 朝日を背負う彼が眩しく、ツォンは目を眇めた。
「今日は私のおごりだ」
 レノは珍しいものを見るような顔をした。
 そして、再び歯を見せる。
「それ、俺へ借りがあるって思ってるんですか?」
「・・・借りたものは、早く返す主義でな」







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 神風の意味は2つ。

 本当はレノさんを認めているけれど、「向こう見ず」とか言っちゃう ツォンさんのお話。
 レノさんは、パワーないけどスピードがあって、荒削りだけど綺麗な 戦い方をする人だと思う。
 でも、完璧より荒削りなほうが 好きそうですね。



2004.10.09





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