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1960





























 どこで拾ってきたのか解らない、古く汚いレコードプレイヤー。
 それがタークスのオフィスに入ってきたのは、昨日のことだ。
 空いた机の上にそれを置き、その横には山のように積まれたレコードたち。レノは椅子の上で足を組み、 ルードを見上げた。
「ルード、あんたはいつの音楽が好きなのかな、と」
「・・・60年代」
「へぇ、さすが。渋いね、と」
 レコードを手に取り、プレイヤーにセットする。
 流れ出す古き良き時代の音楽。ルードは腰を下ろすと、じっとそのメロディーに聞き入る。レノは 頭の後ろで手を組んで目を閉じた。
 オフィスに戻ってきたツォンとイリーナは、怪訝そうにレノたち2人とレコードプレイヤーを 見比べる。
「どこから拾ってきたんですか、こんな年代物」
「ゴミ捨て場だぞ、と。まだ動くからな」
「だからって、オフィスで流さなくても・・・」
「イリーナちゃんは古い音楽とか知らないかな、と」
「解りますよ!このレコードも有名じゃないですか」
 後輩はむっとしてレコードのケースを手にとる。ケースの字は擦れており、写真もあまり きちんと見取ることができない。ざらついた表面を撫でて、イリーナは1枚1枚文字を読み取る。
「レノ先輩の趣味ですか?」
「いや、ルードが60年代が好きだっていうからな、と」
 ツォンもまたそのレコードのケースを手に取る。
「だろうな。お前がこんなにいい趣味をしているとは思えん」
「俺だって、この頃の音楽聴きますよ、と」
 レノは背もたれから身体を起こし、同じくゴミ捨て場から拾ってきたのだろうレコードの 山を漁る。
「これとか、好きですよ、と」
「ジャック・ホールか。なかなかだな」
「ツォンさんは」
「クレリア・ヴァッセル」
「・・・そうきましたか、と」
「いいだろう」
「確かに、いいですね」
 オフィスにこんなものを持ち込めば、いつものツォンならレノと一緒に放り出している ところだ。だが、今日は違った。
 50代で最高の歌声を披露した、男性歌手。
 低く掠れた声が、甘く、深く、部屋を満たしてゆく。
「でもヴァッセルは、後半がイマイチじゃないですか、と」
「初期がいいんだ。声の深みは後半がいいが」




 オフィスの外まで響くその60年代のメロディーは、廊下を歩いている人々の耳にも届く。 すれ違う社員たちは不思議そうにタークスのオフィスのドアを見つめる。ある者は立ち止まり、 ある者は口ずさみ。




「ルード、あんた歌えよ、と」
「・・・無理だ」
「歌えるんだろ」
 イリーナはコーヒーを配りながら笑う。
「歌ってみてくださいよ」
「俺は歌えるぞ。Load up on guns and、・・・なんだっけ」
 ツォンは指を鳴らす。
「bring your god of death」
「お、すごいですねツォンさん」
 ルードが続ける。
「・・・Oh well,whatever,nevermind」
「なんだ、やっぱり歌えるんだな」
 レノがコーヒーの入ったカップを掲げる。
 ツォンは口の端だけで笑う。
「なかなかいい声だ」
 言われたルードは、途端に歌うことをやめる。
 3人は可笑しそうに笑い、また、耳を澄ませた。






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 2004年の9月に書いた話。
 今になって、やっぱり出そうと思いました。
 こういうタークスの話が好きです。



2005.07.23





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