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時に人々の会話というものは






 時に人々の会話というものは、核心をついていたりする。
 それが赤の他人であったり、偶然すれ違った瞬間に聴こえた会話であっても、身に滲みたり、する。
 そういうものだ。



 俺の名前は、レノ。
 神羅カンパニー、タークスのエース。
 そんな俺は今、任務に向かう。
 仕事場は、ここ。電車の中。



 入り口に1番近い、2人がけの席に座り、目的の駅までじっとしている。車?車は、出して もらえなかった。
「きいたかよ、部長、接待費だけですげぇ金使ってるって」
「きいたきいた。だって俺ら、次の出張バギーだぜ!?」
「ヘリの予定だったんだろ」
「予算オーバーってやつだよなぁ・・・」
「しんどいよな、ほんとに」
 そうそう、移動系は金をかけてほしい。
 この2人の見知らぬサラリーマンに同情する。
 まあ、俺の場合、予算オーバーしてしまったのは、部長や主任のせいではなく、俺のせいなんだけどな、と。



「私もう、疲れた」
 入り口に立った恋人らしい2人組の、女のほうが掠れた声で呟く。男は間抜けな声で 「何が」なんて聞き返した。
「あなたは私なんていなくてもいいんでしょ」
「は?」
「支えとして私が必要なんて、思ってないのよね。いつまでも私があなたの後を 追いかけてくるなんて、思ってる?」
「おい、エリ・・・俺は・・・」
「なにも聞きたくない」
 長い長い沈黙が、2人を纏う。
 俺は目を閉じた。
 電車が止まる。
「じゃあね。部屋の私のもの、処分していいから」
「エリ!」
「私は、仔犬じゃないの」
 ドアが閉じられ、動き出す。
 緩やかな振動の中、男は蹲り、溜息を漏らす。
 そして意気消沈したまま、次の駅で降りた。
(私は仔犬じゃないの、か・・・)
 いつか、俺も言われそうなことだ。



「この間さ、面白い会話聞いたんだ」
 若いOL風の女が2人、入り口に立つ。
 手すりを掴む指に塗られたネイルは、桃色だった。
「神羅に、タークスっているじゃない?」
「それがどうかしたの?」
「前、タークスの2人組みが電車に乗ってたの。1人は女の子で、もう1人はおっきくて、 怖そうな人だったかなぁ」
「それが?」
「女の子のほうがね、相手に恋愛相談してたの!」
「ええ!?なにそれ〜!その怖そうな人に?」
 俺は眼だけで女たちを見ようとしたが、顔までは解らない。
 微動だにせず、その会話に耳をすませる。
「私、先輩が遠くなるのが、怖いんですって、言ってた」
「先輩ってことは、タークス内の恋愛?」
「そうみたいだよ〜。けっこう可愛い子だったなぁ」
 それで?
 だから私、追いかけちゃうんです。先輩は私なんかいなくても平気って顔して、どんどん先に 歩いていくんです。だから、それが怖くて。
 先輩には、私なんかいらないのかもしれない。
 そう考えると怖いんです。捨てられたくないんです。
「私、それ聞いて、冷たい男と恋愛してるんだなって、思った」
「タークスでも、恋は普通なんだね」
「うん。で、その怖そうな人は、言ってたの」
 おまえが、あいつを見切るか見切らないか、それは自由だ。
 でもあいつは、おまえにだから背中を見せられる。背中を見せたまま、先に進んでいける。 後ろにいる、おまえの気配を感じていないわけじゃ、ないんだ。
「そう言ってたの」
「なんか・・・意外だねぇ」
「でしょ?見た目で人は判断できないよね」
 女たちは、電車が止まると別の話題に話を切り替えながら、降りてゆく。今度のデートで 指輪もらうの、いいなあ結婚?いやだまさかぁ、なんて、言いながら。
 俺はやっと顔を上げる。



 目の前の席に、イリーナがいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「いつから、いたんだ」
「三つ前の駅で乗ったんです」
「なんで」
「ツォンさんに、フォロー頼まれて」
 イリーナは制服で、俺も制服だった。
 なんとなく、彼女を、見つめる。
「さっきの噂話、私とルード先輩ですね」
「・・・だな」
「噂って、尾ひれつきますけど、あれ、本当です」
 本当です。私、そんなこと相談してたんです。
 イリーナは、俺の眼を見て、そう言った。
「・・・ルードが言ったことも、本当だ」
「え?」
「ルードがおまえに言ったことは、本当なんだぞ、と」
 イリーナは、笑った。

 よかった。じゃあ私、ちょっと元気でた。



 私は仔犬じゃないの。
 そう言われなくて、良かった。



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 顔を洗っていたら浮かんだタイトル。
 ざばあっと顔を上げて「ああ!」と叫んでしまいました。



2004.07.28





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