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仮想の理想






 昔から、強い女の人になりたいと思っていた。
 男の人に頼らなくても、自分で自分の身を守れるように。
 女は、女らしく?
 何よ、それ。
 私は、そんなのは嫌。



 昔はそう思ってたっけな・・・なんて、私は思う。
 雨の降るミッドガルの風景を眺めていると、自然とそんな感傷的な 気持ちになってしまう。
 昔から今まで、ずっと強くなろうと努力してきた。でも、結果としてそれは 自分から男性を遠ざける結果となった。
 怖い女とか、可愛げのない女とか、散々言われたのだ。
(女らしくしろなんて、余計なお世話)
 だから私は、そんな男たちには見向きもしなかった。
 いつしか・・・、自分よりも強くて、優しくて、包容力のある人が「理想の男性」 になっていた自分に気付く。
「イリーナちゃーん、コーヒー入れてほしいな、と」
 これが、強くて優しくて包容力のある人?
 イリーナはため息をついて席を立つ。
「先輩、どうせ暇なんだからコーヒーぐらい自分で入れてください」
「俺が淹れると、どうもまずいんだよな」
「そんなこと知りません!」
 優しくないし、包容力があるとも思えない。
 それでも・・・、私より格段に強かった。ダラダラとしていてレベルは上げないし、 卑怯な技を使う。だが私と一対一でやったら、勝てる自信がなかった。
「・・・先輩、私と戦ったら勝つ自信ありますか?」
「は?・・・さぁ、女の子には勝てないぞ、と」
 ニヤニヤと笑い、先輩はカップを差し出す。
「嘘つきですね。本当は強いくせに」
「どうだか?本気出したことなんかないからな、と」
 ・・・解らない人。
 どれだけ考えても、解らない。
 私は先輩のカップにコーヒーを注ぐ。
「先輩は、自分のこと、解るんですか?」
 椅子に座ったままの先輩が、私の腰を抱き寄せる。
「・・・知りたい?」
「知りたい、です」
「俺は自分のことなんか、知らないぞ・・・と」
 力強い腕。
 曖昧な人なのに、それだけがはっきりしている気がした。
「お前は、自分のこと解るのかな・・・、と」
「私、ですか・・・?」
 先輩が、顔を上げて私を見た。
 綺麗な色で、怖い、眼。
「・・・俺とこうしてること、頭で理解できてる?」
「それは・・・」
 できて、ない。
 だってこんな人、私の理想としてた人とは、違うもの。
 でもそれを言えるほど、・・・私は子供じゃない。
 理想なんて、仮想でしかないのだもの。
 それが解らないほど、幼くはないから。
「・・・先輩は、頭で理解できてるんですか?」
「まさか」
「・・・・・・」
「俺はもっと、華奢で優しい子が好きだからな、と」
 私は、先輩を睨む。
「じゃあ、そんな子と付き合えばいいじゃないですか」
 先輩の肩を突き放そうと片手をかけたが、その手は掴まれてしまう。
「ガキじゃないんだ。お前だってわかるだろ?」
「何を・・・」
「理想どおりで綺麗なものだからって、確実に気に入るとは、限らないってことをな、と」
 綺麗だから、大切にする?
 違う。
 もっと汚くて、古びていて・・・だからこそ、大切にするものがある。
「それと同じだろ」
「・・・それ、いい意味で言ってるんですか?」
「何を気に入るか、俺は自分でも解らないぞ、と」
「・・・・・・」
 私はコーヒーを机の上に置いて、目の前にある真っ赤な頭を強く、抱き締めた。・・・ 全然好みじゃないのに、なぜか気に入ってしまった、それを。
「ま、気に入っちまったもんは、仕方ないよな、と」
「・・・仕方ない、です」
 先輩が、私の胸で笑う。
 気に入ったから、大切にする。
 たったそれだけのこと。



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 一ヶ月以上かかって書いたものです。
 なぜそんなに苦労したのか解らないんですが・・・、これのせいで、レノイリ小説の ほとんどが進行しなくなって困りました。
 最初の数行から進まない、ということが、たまにあります。


2004.06.09





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