ブロックタイプのそれが、宝条の机にあった。
 それを見たレノは、「ああ、やっぱり」という気持ちになる。
 この人は、こういうものから栄養を摂るのか、と。
「でも、これ」
 言いながら袋を持ち上げて、レノは振り向く。
 宝条はソファで書類に目を通していた。
「でもこれ、本当に、栄養きちんと足りてるんですか、と」
「私が作ったものだ。当然、足りている」
「・・・そうですか、と」
 レノは引き下がり、微かに笑う。
 宝条という男の顔は、どう見ても栄養がきちんと補えている様相ではない。この自分で作った もののバランスは、一体どうなっていることか。
 貰って良いかと訊くこともせず、レノはそれをひとつ、齧る。
 味は淡白だった。甘さは極力抑えられ、粉っぽい小麦粉のような味がする。
 レノは不思議と、自分が宝条の実験台になったような気がした。
 いきなり身体が変形するのではないか。
 明日の朝起きたら、モンスターになっているのではないか。
 そんな、不思議な空想に駆られる。
 彼が作ったものを食べる、というのは、そういうことだ。
「博士、これ、全部の栄養入ってるんですか、と」
「そんな面倒くさいこと、できるものか。私が自分で足りないと思ったものだけ、 重点的に入れているというだけだ」
 にべもなくそう言い、宝条は書類を見つめ続ける。
 レノは食べかけたそれを齧りながら、振り向いた。
「じゃあ、俺に合ってるやつも、作ってくださいよ、と」
「なんだそれは」
「だから、俺に足りないもの」
「知るか。精力剤でも買って飲んだほうがいいんじゃないか?」
「俺のこと、そういう風に見てるんですか、と」
「違うのか」
 否定をせずに、レノは両腕を挙げた。
 最後の一欠けらを飲み込んで、彼はビーカーにコーヒーを注ぐ。
 ここでこうするのも、もう、慣れてしまった。
 ぬるいそれを啜り、ソファに座る。
「栄養より、もっと別のもの補助してほしいもんですよ、と」
「別のもの?」
「愛とか」
 言うレノに、宝条は笑う。
「それは、誰かの愛か?それとも、他人への愛か?」
「さぁ、どちらだと思いますかね、と」
 答えずに、宝条は書類を投げ出す。
 ポケットから新しい煙草を取り出して、火をつけると、 ゆっくりと煙を吐き出して天井を仰いだ。
「後者なら、いらないな」
「足りてるんですか、と」
「私は慈愛の塊だからな」
「自愛じゃなくて?」
「それはきみだろう」
 くっと喉で笑い、レノはコーヒーに再び口をつける。
 やはりそれを飲むと、自分がサンプルのような気持ちになった。








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 こんな話ばかり頭に浮かぶ・・・。
 本当に、レノと博士という組み合わせが好きです。



2005.07.31





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