求 め て 叫 ん で
− AFTER −
ばかじゃねぇの、と。
そう言って、レノはイリーナの髪の毛を撫でる。
何も変わることのない指と、声と、香り。
それらのものが、イリーナの意識を満たした。
無意識に必要だと感じていたものが、心のひびに浸透してゆく感覚だった。
冷たく、涼やかに。そして、ひどく甘く、温かく。
言われていることは、いつもの暴言であるにも関わらず。
それでも彼女は、幸福に打ちひしがれた。
優しい暴言をふりかざして、
残虐な幸福で縛り上げる。
こんなことが、まかり通っていいの?
顔を上げたイリーナは、微かに口唇を歪ませていた。
涙の滲んだ目尻を拭い、レノは笑う。
あの色をした口唇が、そこに存在している。
それだけで、充分だった。
了解を得ることもせず、彼は彼女に口付ける。
いつもと変わらず、どこか遠慮がちなイリーナに、レノは思わず笑ってしまう。
・・・いつもと変わらず。
それでも、その口付けは、まるで数年ぶりかのようだった。
なんで笑うんですか、と、イリーナは眉を寄せた。
そんな言葉にも、彼はまた、笑ってしまう。
従順で、ひどく我儘。
この女は、俺を抉り、同時に癒す。
そんなことを繰り返されるなんて、たまったものじゃ、ない。
なぜ求めるのかなどという問いが、ただの愚問であることを、ふたりは知っていた。
必要だと感じることに、理由があるとは、限らないから。
ただ、叫ぶばかり。
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いったん別れて、再び戻る話、というものはずっと以前から考えていました。やっと形に出来て良かったです。
ひどく難産だった気が、する。
BGMは、こっこの「オアシス」でした。
や、こっこというか、SINGER SONGERの。
2005.07.05
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