なぜ、いらないと思うものばかり、与えられるのだろうか。
 そう思いながら、レノは暗闇の中で煙草を吸っていた。
 隣には、金髪の後輩が眠っている。
 静かに煙を吐き出して、彼は前髪を掻き上げた。





 希望などいらない。
 自分を理解してくれる人間など、いらない。
 そんな恋人もいらない。
 仲間もいらない。
 安らげる時間もいらない。





 明日なんか、いらない。





 そう思っていたのに、それらは彼の周囲に存在していた。
 自分が立つ場所に、確かに。
 レノはその事実に時折震えた。
「・・・いらないって、言ったじゃねぇか」
 なのに、どうしてよこすんだ。
 そんなことを、信じてもいない神に託つ。
 返事のない暗闇に、彼はきつく眉を寄せた。





「あんたはなにも知らないから、勝手によこすんだ」
 おれは、いらないんだよ。そんなものたち。
 失ったときの途方もない痛みを、あんたは想像もしないだろうな。
 ただ、いいものだと思って、よこすんだろうな。
 ・・・勝手だ。
 いつもそうだ。
 そういうのは、手に入れても、捨てられないんだよ。
 だから、厄介なんだよ。
 どうせなら、よこすときに教えてくれよ。
 燃えるごみなのか、燃えないごみなのか、そのぐらいはさ、と。





 自嘲的に笑い、煙草を灰皿に押し付けた。
 あと1時間もすれば、いらないはずの朝もくるだろう。
 受け取ったら、捨てることも、逃げることもできないもの。





 新しい煙草に火をつけて、彼は再びひとりごちる。
 その相手は、彼が信じているほうの神だった。





 失ったときが怖いから、いらないとか言ったんだ。
 覚悟を決めるふりをして、最初から捨てていただけなんだ。
 ・・・可笑しいだろ。
 いらないと思うものなのに、失いたくないなんて。
 どうでもいいと思うのに、癒されているなんて。
 ひどく、ひどく、切望しているなんて。





 微かに明るくなりはじめた外に背を向けて、レノは再びベッドに身を沈めた。白く柔らかな 後輩の身体に腕を回し、ゆっくりと目を閉じる。
 もう少しだけ、眠っておきたかった。










 可笑しいものだ。
 自分はこれほどまでに「いらないもの」に囲まれている。
 そしてそれを抱き締めている。
「・・・くれたんなら、俺のものだよな、と」










 あんたは奪いにきたり、しないよな、と。








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 なんか、なにかがぐわーっときたときに書いた話。
 そういうときは、基本的に自分で納得のいくものが書けます。
 ああこれだーとおもう。
 


2005.06.18





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