B C Party

 





誘導尋問






「先輩、こんなお店知ってたんですね」
「まあな、と」
 レノが案内した店は、確かにハードな感じというよりはソフトで客層も 紳士淑女といった感じの店だった。
「お前は友達とかと来ないのか?」
「・・・友達、今はもうあんまり付き合い、なくて」
 カウンターに座りながら、イリーナは呟く様に言った。
「そういうタイプには見えないけどけどな、と。あ、何飲むんだ?俺はギムレット」
「・・・お酒、あんまり詳しくないんです」
「そうか、じゃオーロラを」
「かしこまりました」
 バーテンが引っ込むと、レノは愛用のジッポを取り出しタバコに火を灯した。
「あの、私って急に出世したじゃないですか。だから、女の友達みんな私のこと 妬んじゃって・・・嫌な世界ですよね」
「妬み、ねぇ」
「なにか?」
「お前だったら、突っ張ってるかと思ったぞ、と」
「・・・やっぱり、ひどい言われ方したら私だって落ち込みますよ」
 レノが頼んだギムレットとオーロラが出される。
 イリーナは慣れないカクテルを静かに口に運ぶ。
「わ・・・美味しい。けっこう甘いんですね」
「酒、弱いんだろ?甘いけど、アルコールは強いから気をつけろよ」

 こうして女に酒を勧めて、話を聞くレノの姿は、仕事をしている時とはとても違い、 店の雰囲気にも酔って、とても紳士に見えた。

「ひどい言われ方って、なんだよ?」
「・・・いい男に囲まれて甘やかされて、結構ねって」
「はははは!」
「な、何がおかしいんですかっ!?」
「任務中に、俺たちが甘やかしたことなんてないのにな、と」
「そうですよ!だから悔しいんです」
「いい男ねぇ。客観的にはそう見えるのか、と」
 イリーナはむっつりとしてグラスに口をつける。
「じゃあ、お前がこうして俺と飲んでるのも妬まれるのか?」
「・・・自意識過剰ですよ先輩」
 くっと喉だけで笑うと、レノは煙草をもみ消した。
「何が憧れるのか、わかんねぇな、と」
 イリーナはゆっくりとレノを見遣った。
 レノは真顔で強いアルコールを流し込んでいる。
「タークスの痛みなんか、タークスにしかわかんねぇ、だろ?」
「・・・憧れるうちが倖せ、ですか?」
「ここ数年のタークスは誰だってそう思ってる」


 俺たちは、血の匂いが染み付いた。


「お前はまだ平気だ」
「・・・先輩・・・」
「俺もルードも、ツォンさんも、もうダメだ。取れない」
 薄く笑い、レノはひらひらと手を振る。
「・・・早く、タークスなんか辞めちまうんだな」
「・・・・・・」
「嫁にいけなくなったら困るんだろ、と」
 血の匂いが染み付いた身体で。
「そんなの、嫌です・・・」
「お前は一生独身てガラじゃないだろ」
 レノは左の口の端を持ち上げて、2杯目のギムレットを注文する。
 イリーナは、もみ消された煙草を見つめる。クリスタルの灰皿の中で、 煙草は虚しく潰されている。
「そしたら、先輩だってそろそろ辞めたほうがいいんじゃないですか? お嫁の来手がないですよ?」
 精一杯、冷たく言う。
「お生憎様。俺にはこれしか仕事がないんだぞ、と」
 途端に、レノが大きく身を乗り出して、イリーナの顔を覗き込んだ。
「それとも、誰か来てくれそうな人でもいるのかな?と」
「だっ、誰が・・・」
 そう言ってから、我に返ったイリーナは口を噤んでぷいと顔を反らす。
 またハメられてしまった。
「ひどいですね、先輩」
「酷いことなんか、した覚えはないぞ、と」
 煙をくゆらせながら、レノは笑っている。
「ま、俺は血の匂いがした女でも平気だがな、と」
 イリーナは、俯き、空のグラスを弄ぶ。
 視界の端に、レノの吐き出す白い煙。
「ひどくなきゃ、ずるい・・・・・・」


 なんて冷たいんだと思う。
 誘導尋問みたいに、自分の想いが暴かれていくなんて。


「友達に言っておきます」
 店を出て、火照った顔でイリーナは笑う。
「何を?」
「タークスの男に惚れるもんじゃないって」
 レノはポケットに手を突っ込んで、またニヤッと笑う。
「自分のこと?」
「それ、願望ですか?」
「言うようになったもんだな、と」


 タークスの男に惚れたらおしまいだ。
 冷たい上に、誘導尋問だなんて、たまったもんじゃない。


 飽きることはないけれどね。



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 2002年11月19日作成のものを修正。
 大して変えるところはありませんでした。私のレノイリ原点だからかもしれません。 うーん。でもやっぱり多少は違う、かも。
 サイトに置くために書いたレノイリでは、2本目です。


2004.10.27





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