だって、そうだろう。 たとえば。 たとえば。 彼と敵対しなければならないことが、あるとしたら。 そんなときの自分が、どうなるか。 想像するのはあまりにも簡単で、暇つぶしにも、ならない。 だって、そうだろう。 ほら。 あのひとが近づいてくるという、この瞬間で、嫌が応でも解る。 息を殺すなんて、できやしない。 気配を消すなんて、できやしない。 心臓はいかれている。 呼吸はまともにするだけで、精一杯。 彼を見た瞬間に、無表情を装うなんて、無理な話。 だから、なあ、わかるだろう? この頬に触れるだけで手が震えるというのに。 その胸に埋まっている心の臓を貫くなど、無理なんだ。 たとえ彼が許しても。 最期に笑ってくれたとしても。 刃を持ったおれの手を、その胸に導いてくれても。 目を閉じてくれても。 おれは、できるはずがないんだ。 でも。 でも、ね。 もしおれが、本当に彼の敵となる日があったら。 相対してどちらかの命を絶たねばならない時がきたら。 おれは、彼に笑いたい。 許して、やりたい。 刃を持った彼の手を、この胸に導き、目を閉じたい。 さあ、と、言って。 だって、そうだろう。 彼の手にかかるならば、それほど倖せなことはない。 でも、彼にそうさせるのは、狡いことだ。 おれは倖せでも、彼は苦しんでしまう。 未来永劫、その哀しみに心を刻む。 だから、もし本当にそんなことがあったら。 おれは、彼を殺してあげようと、思うんだ。 彼が望むように、その灯火を吹き消そうと、思うん、だ。 そうすればきっと、彼は、しあわせだ。 おれは苦しみを背負うけれど。 でも、いいんだ。 彼の命を絶ったのが自分であるなら、それだけで意味がある。 だって、そうだろう? だって。 だって。 そう思うしか、ないだろう? たのむから・・・ そう、言ってくれないか・・・。 言い訳と、肯定の哀願。 2006.05.07 |