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 池の近くで三郎の声がする。そう思った長次は、無意識に足をそちらに向けていた。
 庭の池のほとりでは、運動をした後なのであろう三郎と兵助が、上半身の着物を脱いで 水をかけあっている。まだ幼い子供のように、ふたりはふざけ合い、雷蔵がそれを 笑いながら見ている。
 長次は、縁側からそれを眺めた。
 透明な雫の流れるその背は艶めいているが、それよりもずっと強い力で長次の心を 動かしたのは、その背骨だった。
 腰元から、首筋まで。
 まっすぐに伸びた背骨は、目を見張るほど美しく。
 息を飲むほど、つつましく、しなやかに。
 思わず止めていた息を吐き出して、長次は目を眇める。
 あの身体の全てをかき抱き、その背骨を撫で、節のひとつひとつに 口付けをしたい。
 そう思うほど、彼の背骨は長次の心を奪う。
 三郎という人間の首や、胴や脚を支える、1本の強い骨。それを快楽という名の愛撫で 抜いてしまったら・・・。きっと彼は、骨抜きという言葉どおり、 あのまっすぐな身体をぐにゃりと曲げて、自分に縋るのだろう。
 やめてくれ、か。
 もっと、か。
 どちらでもあっても、長次が与えるだろうものは、同じだ。
「長次先輩!」
 ぼんやりとしていた長次は、呼ばれ、はっと目を上げる。
 水しぶきで濡れた体のまま三郎が駆け寄ってくると、長次は同じ目線になるように 庭に下りる。
「図書室に行くんですか?」
「ああ」
「おれも、後で行きます。着替えてからだけど」
 遊んでいたことを照れるように、三郎が笑ったとき。
 長次の手が、予告も断りもなく、彼の背に回る。
 それは彼にとって無意識の行動であった。
 皮膚越しの背骨に触れている指で、上から下へ、つと撫でる。
 節のひとつひとつを、ゆっくりと確かめるように。
「・・・ぁ」
 三郎の身体がびくりと震えるのと、顔が朱に染まるのは、ほぼ同時。
 そんな彼は思わず口に手を当て、動揺を隠せぬままの眼を伏せる。
 長次は耳まで赤くしている彼の背から手を離すと、赤くなっている頬にそっと触れ、「あとで」と 囁く。
 そうして何事もなかったかのように踵を返した長次であったが、 彼こそが、三郎より狼狽していた。
 自分が思わず触れてしまった背骨の感触。
 そして、三郎の吐息が混じった声。
 全ての現実が、長次を煩悩の中に引きずり込もうとしてくる。
「・・・だめだ」
 あらぬ妄想まで掻き立てられ、長次は左右に頭を振る。
 自分は自制心があるほうだと思っていた分だけ、突然こういう事態が起きると 冷静さを失ってしまう。
「・・・少しは、我慢しろ」
 とりあえず、自分の右手にそう言っておいた。





 しかし、この自制もいつまで続くものか、自信などなく。








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 背骨フェチのムラムラ長次。
 彼はムッツリでこそキャラが引き立つ方ですよね。デヘ。

 最初は暗い話でした。
 その背骨をへし折って全てを愛してやりたい、ぐらいの。




2005.09.28





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