B C P

 













































 兵助は、はじめて彼の横顔をしっかり見たときのことを、今でも鮮明に憶えている。
 額にかかる髪の毛は、触れずとも柔らかさが伝わり、その輪郭は まるで幼子のように小さい。両手で簡単に包み込めそうなその顔には、 人よりも大きいだろう瞳が埋め込まれている。
 かわいい子だなぁ、と、幾度思ったことだろう。
 じっと見つめる兵助の視線に気付き、喜八郎はふわりと微笑んだ。まるで鈴の音すら 聴こえてきそうな笑顔。
 兵助は、手の下にある草を強く握った。
 際限なく柔らかそうな口唇は、緩やかに弧を描いている。
 口付けてみたい。
 そう思わずには、おられぬほど。
 せめて指でも良い。触れてみたいと。
 無意識に、兵助は喉をひとつ鳴らす。
 顔が火照っているのが、自分でも解る。
 そんな彼の横で、喜八郎は言った。
「いいですよ」
「・・・・・・え?」
「先輩のしたいこと、しても」
 言われ、兵助はさらに顔を朱に染める。
 誤魔化そうにも、じっと、穴の開くほど見つめられて、なんの言葉が浮かんでくるだろうか。
 まるで、己の思考を読まれているかのようである。
 ・・・良いと言うのなら。
 もう、この衝動を止める必要などなく。
 兵助は、相手の細い肩に触れ、顔を寄せた。
 喜八郎は何も言わず、瞳を閉じる。
 互いの距離が失われる感覚に、兵助の鼓動は早鐘のようだった。
 反射的に息を止め、壊れものに触れるかのように、口付ける。
 その感触に、兵助は一瞬で酔った。
 やはりそれは、どんな果実よりも、甘く、柔らかく。
 全てが想像を越えてしまう。
 角度を変えるほどに、それは一層甘く。
 飽くことすらなく。
 麻薬のようだと思えるほど、蠱惑的で。
 惜しむように口唇を放すと、喜八郎はあの大きな 宝石のような瞳で、兵助を見上げていた。
「・・・もう、いいんですか?」
 そんな。
 そんなことを言われ、うん、と、答えられるだろうか。










 喜八郎が口にする、「いいですよ」も「もういいんですか」も。
 どちらも本当は、「そうしてほしい」のだという彼の願望だと、そう、兵助が気付くのは、 もう少し先の話である。








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 も、もうれつに、ね・・・、キスをさせようと。
 そうさせようと、思ったのです。
 久々地が一発でべろんべろんにされてるといいな、と。




2005.08.27





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