B C P

 












































 唐突に抱きすくめられる瞬間、喜八郎は狼狽を隠せない。
 やさしいやさしい久々地先輩。
 そんな人が、あまりにも強く、自分をかき抱く。
 それはいつも、あまりにも突然で、思考すらも中断される。
 いつものように振舞おうとしても、それが叶うことはない。
 ただひたすら、言葉を失って、その力に流されるだけだ。
 少しだけ情けなくなってしまうほど顔が赤くなるのを感じながら、喜八郎は顔を伏せる。口唇を 閉じる。なんとか呼吸をする。
 そんな自分の耳元で、兵助はいつも囁くのだ。
「こういうときの綾部も、かわいい」
 そんなことを言われ、喜八郎はさらに顔を伏せるしかない。
 いつもは兵助を狼狽させる立場であるのに、こうなってしまうと、手も足も、口も出せなくなってしまう。





 そんな流れのまま肌を重ねることの羞恥。
 比例する快楽。
 顔を両手で覆う喜八郎に、兵助は幾度も口付ける。
 狂おしく、抱く。





 いつもおなじことしてるのに、きょうは、はずかしいんだ?
 そう言う兵助の手は、あまりにも優しく、喜八郎の髪を梳く。
 からかうような言葉。
 嬲られる身体。
 麻痺してゆく意識で、喜八郎は兵助を見上げた。
 どうして、時折、こうなってしまうのだろう。
 いつもは自分が優位であるはずなのに。
 こんな日は、喜八郎の予測もなくやってくる。
 準備などできないまま、羞恥と被支配感に満たされる。





 口数の少ない喜八郎を、兵助は強く抱き締める。
 いつものように蠱惑的な笑みも浮かべず、余裕も見せられない喜八郎が、彼にとってはひどく いとおしかった。
 初夜のように、遠慮がちで細く擦れた声を上げる。
 常とは違う兵助に戸惑い、そして恥じらう。
 小動物のような目元は、暗闇でも赤みがかっているのが解る。
 仕草のひとつひとつが、兵助を常とは違う心持ちにさせた。
 そんな彼が今晩限りのものだということを、兵助は理解している。明日の朝には、 いつものように涼やかな誘惑をする喜八郎に戻っていることだろう。
 だからこそ、仕返しのように、彼は喜八郎に囁いた。
「・・・言ってみてよ」










 綾部は、どうしてほしいの?








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 飄々としている綾部も、たまに恥じらい全開だったりしたら可愛いなぁと、 勤務時間中に考えていました。萌えは単純なのに、書いてみたらなかなか難産でした。 うむむ。




2005.04.12





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