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ふわり







 その日の彼は、天井裏からやってきた。
 ふわりと兵助の背後に降り立ち、ふわりと笑う。
 つられて、兵助もまた微笑み返した。
 喜八郎は彼の首に腕を回し、小さく首を傾げた。
「先輩は、浮気をしないのですか?」
 ふわりとした笑顔のまま、喜八郎が言い放った言葉に、兵助き真顔に戻らざるを得ない。「浮気を しているのか」と訊かれたのではない。「しないのか」と訊かれたのである。彼は 頭の中で慌てて答えを探す。
「し、しない!するわけない!」
「なぜですか」
「な、なぜって・・・」
 突拍子もない質問には、もう慣れた。
 だが、この問いの先にあるものが、彼には見えない。
 マニュアル通りの答えなど、喜八郎には通用しない。それが、喜八郎の良い点でもあり、また 厄介な点でもある。
 求められるのは、ただ、偽りのない本音のみ。
「俺は、本気だけでいいよ」
「本気?」
「だから、綾部だけでいい」
「ああ、なるほど」
 兵助の愛がこもった言葉に、喜八郎は冷静に頷く。
 兵助は相手の腰に腕を回して項垂れた。
「なにこれ、テスト?」
「いえ、ただ訊いてみただけです」
「なんだ」
 安心したような兵助の胸を押し返し、喜八郎が真顔に戻る。
「浮気もしない男とは結婚しちゃだめらしいんですが、どう思いますか」
「は!?」
「これじゃあ、私は久々地先輩と結婚できません」
「ちょ・・・、じゃあ、俺は浮気しないといけないのか!?」
「それはそれで嫌ですね」
「俺も嫌だ」
「それに、この論が正しいとなると、先輩にとって私は『結婚してはいけない男』ということになります」
「というと?」
「私も、浮気はできません」
 困ったように眉を寄せる喜八郎をよそに、兵助は嬉しさの隠せぬ表情で彼を強く抱き締めた。 この際2人に『結婚できるかできないか』の根本的な問題はどうでもいいらしい。
 しばらく喜八郎を抱き締めた兵助は、はっとしたように身体を離す。
「・・・ところで綾部」
「はい」
「そんな話、どこで聞いてきたんだ」
「ああ、女の子の読む雑誌です」
「そんなの、どこで読んだんだ」
「くの一の子たちと一緒に」
 その様子を想像し、兵助は「なるほど」と頷く。
「雑誌はあてにならないからな」
「そうですね」
「浮気しないなら、万事問題ないじゃないか」
「でも先輩、『浮気できる相手がいない男と結婚してはだめだ』ということだとしたら、問題があるということではないでしょうか」
 ああ、と兵助も考え込む。
「でも綾部」
「はい」
「俺だけが惚れてるってのも、それはそれでいいと思わないか?」
「じゃあ先輩は、私だけにしか愛されなくても構わないんですか」
「何も問題ないじゃないか」
「欲がないんですね」
「あってもいいのか」
「許しません」
 再び、ふわりとした笑顔。
 それは、釘を刺す笑顔に他ならない。
 兵助は呆れたように肩を竦め、再び相手を抱き締める。
「こんな可愛いお姫様がいるのに、浮気なんてできませんよ」
「ありがとうございます」
 悪魔のような天使は、微笑んだまま兵助の肩に凭れた。





「浮気をしたら、床下から刺し殺しますね」
「・・・・・・・・・な、なるべく、苦しませないでくれ」
「それはどうでしょうか」





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 綾部は、浮気をしたら怖そうな子だと思います。
 笑顔で「いいですよ」と言いつつ、包丁を研ぎそうな。
 だめだ・・・変なイメージが出来てしまっている・・・笑




2005.02.24





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