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 あまり、意識がはっきりとしない。
 それでも、兵助は自分が何をされているのか、それだけは解った。
 憶えのある手が、身体に触れている。
「・・・綾部」
 呼ばれた手の主は、その動きを止める。
 柔らかな髪の毛が、兵助の頬を音もなく撫でた。
「じっと、していてくださいね」
 今日は、疲れているでしょう。
 最後の授業は、実技だったみたいですから。
「・・・綾部、なんで・・・」
「なんで?」
「なんで、俺は・・・寝ていたんだ?」
 その問いに答えることはせず、喜八郎は薄く微笑む。
 笑みの形のままで、その口唇が兵助の耳朶を噛んだ。
「そんなこと、どうでもいいじゃないですか・・・」
 眠らされてしまったのだ。
 そんな考えが、兵助の脳裏をよぎる。
 だが、確かにどうでも良かった。
 そう思ってしまうほど、身体がだるく、動く気になれない。
 言いなりになってしまうほうが、遥かに楽なほど。
「先輩・・・、だるいですか?」
「・・・だるい、よ・・・」
 その答えに満足したように、喜八郎が耳元で笑う。
 かすかな吐息に、兵助は目を伏せる。
「先輩は、耳が弱いんですね・・・」
 笑いを含む擦れた声が、鼓膜を震わせる。
 兵助は薄く瞳を開いた。
 眼前には、白い肌が存在している。
 着物を着ているというよりも、ただ纏っているだけと言ったほうがいいほど、 肌のほうが露出をしていた。
「寒く、ないか?」
 その言葉に、喜八郎は目を細めた。
「可笑しいことを、仰るんですね」
 白い指が、兵助の胸を撫でる。
「先輩だって、同じようなものです」
 言われた兵助は、自分の胸に視線を動かす。確かに、喜八郎と同じほど自分の肌も 露わになっていた。それでも寒くないのは、この熱のせいなのだろうか。
「・・・先輩、今日は私が上ですからね」
 静かであるにも関わらず、否定することを許さない声。
 兵助は返事の代わりに再び目を閉じた。
 どうせ今は、身体を動かすに気になれない。
「・・・先輩」
 再び、彼の白い手が身体の上を移動してゆく。
「だめですよ、私に薬なんか盛られているようでは」
「・・・油断、してた」
「知りませんからね」
 いつか、私に毒を盛られて、殺されても。
「・・・いいよ、それでも」
 俺の身体は、もう、毒に犯されているから。
 おまえが与える日々の毒は、もう、身体を蝕んでいて。
 だから、もう、逃げ出せないほど、その毒が欲しくて。





 お願いだ。
 今宵も、その毒を俺の中に。





 もしかしたら、それは蜜なのかもしれないけれど。





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 リクエストをくださった、匿名さまへ。





2005.02.05





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