B C P

 





青色吐息







 見てください、と、喜八郎が言う。
 彼は草履を脱いで、雪原と化した田に足を入れる。
 深くなった雪は、喜八郎の身体を沈み込ませることなく受け止める。雪の中に 素足で立つ喜八郎を見つめて、兵助は目を細めた。
 傘を片手に持ち、彼は綺麗な手足を舞わせる。
 雪と同化しそうなほど白い手足が、雪に舞い続ける。
 嬉しそうな顔だった。
「何ていう踊りだ?」
 舞続けながら、喜八郎は首を傾げる。
「てきとうです」
 可笑しそうに、兵助も笑う。
 喜八郎は雪の上から手を差し出す。
「先輩も」
「俺は無理だ」
「適当でいいんですから」
 艶めいた笑みを浮かべる喜八郎がに誘われるように、兵助もまた 素足になって田に足を踏み入れた。
 だが、どうにも喜八郎のように沈まないコツが解らない。
 すぐに埋もれそうになってしまう兵助を見て、彼は笑った。
「先輩、忍者は雪に埋もれてはいけませんよ」
「いいよ。今は、忍者じゃないから」
 雪に座り込んだ兵助を見下ろして、喜八郎が傘を差しなおす。
「じゃあ、なんですか?」
「恋人」
「・・・・・・また、そんなこと仰るんですね」
 いつも、唐突に、無防備な自分に。
 喜八郎は目いっぱいの力で、兵助を雪に突き飛ばす。
「うわ!?」
 背中から一気に雪に沈んだ兵助は、驚いたように目を見開く。
 そんな彼に馬乗りになり、喜八郎は再び笑う。
「驚かせた、罰です」
「・・・間違ったこと、言ってないだろ」
「でも、驚いたんです」
 そんな言葉が出てくると思わなかったから。
「綾部」
 そしてまた、あの、艶を持った笑み。
 その目で見られると、兵助は逆らうことができなくなってしまう。吸い付くように、 張り付くように、舐めるように、その視線は兵助の 身体の自由を奪ってゆく。
 積もりゆく雪のように、じわじわと。
「先輩には、罰が足りないです」
「・・・そう、か」
「だから、帰って、ちゃんと償ってください」
 愛してくれているなら。
 ねぇ?
 解るでしょう?
「・・・行きましょう」
 喜八郎は立ち上がっだか、兵助は青い空を見つめたまま動かない。雪に 沈んだまま、彼の眼は喜八郎を映していた。
 溺れてゆく。
 水の中に、ひたすら沈んでゆく。
 君という人間に、ただ、ただ。
「久々地先輩」
 喜八郎はしゃがみ、兵助を覗き込む。
「綾部」
「はい」
「怖いよ、俺は」
「何がですか」
「おまえに、溺れていくよ」
 言われた喜八郎は、動じる様子もなく笑っている。
「構わないじゃないですか」
 そうしたら、私の中で魚になれば。
 それなら、私の中でいくらでも生きていられるもの。
 呼吸だって、しなくていいですよ。
「・・・息も、させてくれないのか」
「溺れ死ぬより、いいでしょう」
 優しいのか冷たいのか解らない言葉に、兵助は目を閉じる。
 水面に沈んだ魚のように、雪に横たわったまま、じっと。





 おまえの中は、温かすぎて。
 気持ちが良すぎて、怖いんだよ。
 もう、他の世界では生きられないような気がして。











 ああ、俺は飼い殺されても構わないんだ。





-----------------------------------------


 久々綾でもなく、完璧に綾久々っぽい。
 気持ち的にSっぽい綾部って好きです。襲い受け、みたいな。そして、 気持ち的に完全にMな久々地も好きです。でも、ヘタレ攻めではなく。また微エロくさい・・・。
 



2004.01.29





inserted by FC2 system